中小企業でのBCP(事業継続計画)策定ガイド

中小企業でBCP(事業継続計画)に取り組むとなると、連絡網をつくる・備蓄品を揃える・対策本部を決める、といったわかりやすい取り組みまでは進めやすいものの、その先の取り組みが進めづらいという話をよく聞きます

このガイドは、わかりづらい表現をできるだけ避けながら、BCP策定の意義・中核となる部分の流れ・中小企業ならではの留意点をまとめることで、

中小企業庁の「事業継続力強化計画」「中小企業BCP策定運用指針」をより理解・活用しやすくして、中小企業でのBCPづくりを支援するものとなります


まず、命を守る準備をする

BCPは、社員とその家族が生き延びていて初めて意味を持ちますので、まずは命を守る準備を整えましょう

命を守るための知識や備えは、自社でイチから考える必要はなく、完成度の高いコンテンツが行政や大企業によりつくられているので、それらを活用しましょう

  • Yahoo!防災速報などの防災アプリ
    • 緊急地震速報や避難情報を受け取れる重要なアプリで、災害が起きてからでは間に合わないため、今すぐ導入しましょう
  • 東京防災・東京くらし防災
    • 東京都に限らず、家庭や職場での備えと避難をわかりやすく学べるため、社内での教育・訓練で活用しましょう
  • 自治体のハザードマップ
    • 事業所や自宅の危険度を確認しましょう

次に、会社を守る準備をする

災害の影響で売上が止まっても、給与・家賃・借入返済などの支払いは続き、事業が長期間止まれば、売上だけでなく顧客からの信用も失われる可能性があります

  • もし事業所や設備が使えなくなり、3ヶ月売上が発生しなくなったら、あなたの会社は耐えられますか?
  • 事業が1ヶ月も止まったら、取引先や地域社会に深刻な影響を与えませんか?

だからこそ、災害が起きる前から、会社・社員の生活・取引先・地域社会を守るために必要な、

  • どの業務がどれだけ止まると、事業が復旧不能となる、または地域社会に深刻な影響を与えるのか
  • そうであれば、いつまでに復旧することを目指すのか
  • それが起きづらい環境をどう作るのか
  • どう復旧するのか

を事前に調査して、方針や方法を決めておくことが重要で、これがBCPの中核となります


どの業務を優先して復旧するかを決める(BIA)

会社の業務には、「止まるとすぐに困る業務」と「しばらく止まっても大きな問題にならない業務」があります

これを整理して、優先して復旧すべき業務を見きわめる作業をBIA(ビジネスインパクト分析)と呼びます

BIAでは、業務ごとに次の4つを決めます

  • MTPD(最大許容停止時間):その業務がどれだけ止まると、事業が復旧不能となる、または地域社会に深刻な影響を与えるのか
  • RTO(目標復旧時間):そうであれば、いつまでに復旧することを目指すのか
  • RPO(目標復旧ポイント):どの時点までのデータ復旧を目指すのか(=バックアップをどこまで取っておくか)
  • 重要業務:以上の結果から、どの業務を優先的に復旧すべきか

重要業務とは、止まったときに自社・社員・顧客・地域社会への影響が最も大きい業務です

特に首都直下地震のような広域災害では、平時と同じサービスをすべて維持することはできず、社会や顧客にとって本当に重要な業務から、優先的に復旧するという考え方が必要になります

生命や最低限の生活に関わる事業(水道・電力・通信・医療・介護・物流・食品供給など)は、災害発生後も早期の事業復旧が強く求められるもので、同じ業種でも事業内容や顧客層によって重要度は変わります

また、給与計算も重要業務の一つで、給与の支払いが滞れば、生活への不安を抱えた社員が離職し、事業を立て直す人手そのものを失います

何が業務を止めるのかを洗い出す(リスク評価)

優先して復旧すべき業務が決まったら、次はその業務を支えている経営資源を明らかにします

ここでいう経営資源とは、自社保有の資源だけでなく、電力・通信・水道などのインフラや、取引先・契約している士業など、業務に不可欠な資源すべてを指します

そのうえで、それら経営資源ごとに「どんな脅威が想定されるか」「その脅威によって業務にどんな支障が生じうるか」を推定、すなわちリスク評価を行ないます

同じヒトでも、災害・病気・事故などの脅威から、死去・長期入院・認知症などにつながった時に、社員・代表者・株主と立場が違えば、どの業務が行なえなくなるかが異なることを意識しておくのも重要です

事前の対策を決めて、実行する(事前対策・個別対応)

洗い出した経営資源とリスクごとに、事前の対策を決めて、備えを進めます

この事前対策を行なうことで、緊急時に抱えるリスクを小さくできます

ここで重要なのは、MTPDは経営努力によって延ばせるということで、例えばもっと資金に余裕があればこの業務の復旧はもう少し後でもいいという判断ができるのであれば、次のような備えがMTPDの延長につながります

  • 内部留保・経営者資産の拡充
  • 固定費の圧縮策の事前検討と実施
  • 運転資金の圧縮策の事前検討と実施
  • 公的機関・金融機関からの支援を受けるための事前準備

また、重要業務を早期復旧するために、洗い出した経営資源とリスクごとの個別対応を決めておき、リスクファイナンス(復旧に必要な資金の備え)のため、それにかかる金額も明らかにしておきます


計画づくりで守るべき原則

中小企業でのBCPづくりで忘れてはならない最も大切な原則が、無理な計画をしないことです

中小企業が大企業のBCPのような立派な計画をつくっても、機能させることが困難であれば、実際に事業や地域社会を守る計画にはなりません

次に説明する事業継続力強化計画でも、本格的なBCP策定でも、実行できるとほぼ確信できることだけを計画し、それが実行できるよう準備を進めましょう


まず手軽にはじめられる事業継続力強化計画から

ここまで考えた「事前対策」の中には、自家発電設備やデータのバックアップ環境など、費用のかかる設備投資が必要になるものもあります

こうした投資を後押しするために、国には「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」 という認定制度があり、これは中小企業が策定した防災・減災の事前対策を経済産業大臣が認定するもので、「取り組みやすいBCPのはじめの一歩」 として位置づけられています

認定を受けると、次のような支援を受けられる場合があります

  • 防災・減災に役立つ設備投資への税制優遇(特別償却)
  • 日本政策金融公庫による低利融資
  • 信用保証枠の別枠追加
  • ものづくり補助金など各種補助金の加点
  • 認定を示すロゴマーク(取引先への信頼のアピール)

本格的なBCPをゼロから作るのは負担が大きいと感じる場合でも、まずこの計画から着手し、後からより詳しいBCPへ発展させるという進め方が想定されています

これから防災・減災の設備投資を検討する場合は、先にこの認定を受けておくことで、投資の負担を軽くできる可能性があります

制度の内容や優遇措置は年度ごとに更新されるため、最新の情報は中小企業庁の公式ページで必ず確認してください

次に中小企業BCP策定運用指針で本格的なBCPへ

事業継続力強化計画で「はじめの一歩」を踏み出したら、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」を活用して、本格的なBCPづくりに進みましょう

まず現状を把握する

指針には「BCP取組状況チェック」があり、自社の現在の備えの水準を確認できますので、まずはここから始めてください

4つのコースから選ぶ

取組状況に応じて4つのコースに分かれていますが、すべてを行う必要はなく、中小企業では、まず基本コースを目指しましょう

  • 入門コース:最低限の要素を整理(事業継続力強化計画とほぼ同水準)
  • 基本コース:多くの中小企業にとっての本格BCPの出発点
  • 中級・上級コース:より深い分析や、複数企業での連携に取り組む場合

事業継続力強化計画を済ませた段階で、入門コースの内容はおおむねカバーできているため、次の一歩は基本コースが適切です

このガイドが、どこに対応するか

指針は情報量が多く、どこを読めばよいか迷いやすいため、このガイドで学んだ中核部分が指針のどこに当たるかを示します。

  • BIA(重要業務・MTPD・RTO):基本コース「事業を理解する」
  • リスク評価・事前対策:基本コース「BCPの準備、事前対策を検討する」
  • 復旧に必要な資金の備えなど財務の話:財務診断モデル

このガイドで考え方の全体像をつかんでいれば、指針の各項目が「なぜ必要なのか」を理解したうえで読み進められます